篠田英朗「ほんとうの憲法―戦後日本憲法学批判」を読む

ニッポン放送の『ザ・ボイス そこまでいうか!』というラジオ番組を毎日聞いているのだが、火曜日の宮崎哲弥さんがコメンテーターを担当する回に篠田さんがゲストとして登場していて、その時の議論に興味を引かれたので読んでみた。

なかなかおもしろい本です。
篠田さんの主張を簡単に要約すればこういうことになる。

日本国憲法は、「ならず者国家」として国際秩序を乱した日本を国際社会に融和させるために、アメリカ人がイギリスやアメリカといったアングロ・サクソン的な法思想の憲法を参考にして起草した、国際協調主義を目的とした憲法である。
したがって、日本国憲法を解釈するさいは、国際協調という目的にかなうように解釈しなければならないし、その時の参照先はアメリカやイギリスの法哲学や法思想であるべきだ。
ところが、いま通説となっている解釈はドイツ国法学とフランス革命思想の研究という大陸系の思想を元にしたものであり、そのせいで、憲法学者は歪んだ解釈や不必要な議論をしている。

これが篠田さんの考えである。
なかなか説得力のある展開で、読んでなるほどと思った。


本書の議論の中心になる時代は、美濃部達吉の天皇機関説事件が起こった昭和の始めから戦後の学生運動あたりまでだが、実は明治維新から問題の種は蒔かれていたことを示唆するなど歴史的な視野も広く持っている。

アメリカ人がアメリカの憲法を参考に起草した条文を、ドイツ国法学の概念によって解釈している原因。
そのせいで生じている、主権概念や国家概念の誤った解釈。
アングロ・サクソン的な法思想に基づき、国際協調という目的に沿って解釈した「ほんとうの」日本国憲法の姿。

こういった具体的な問いについても本書は答えを用意している。
ひとつだけいっておけば、自衛権=国家の自然権という考えはドイツ国法学のものであり、アングロ・サクソン的な国家概念ではないので、「ほんとうの憲法」では、"個別的自衛権は自然権として認められるが、集団的自衛権は自然権に含まれるのかどうか"というお馴染み議論そのものが成り立たない。
万事こういった調子で、目から鱗の落ちるような思いの連続だった。

 

全体的にふむふむとおもしろく読んだのだけれど、あえて欠点をあげると、話のテーマになっている時代があっちにいったりこっちにいったりするのでわかりづらいこと。これは時系列に沿って話を進めるのではなく、テーマ別に章立てしたせいだろうと思う。

素直に、ペリーの黒船来航から時系列順に書いた方がはるかにのみ込みやすくなったろう。

 


著者の最終的な結論に賛成するかどうかはともかく、一読して損はないはず。
なにせ、私たちは生まれてこの方、東大法学部系の憲法解釈しか学んでいないわけで、本書はそれを相対化してくれるまたとない機会なのだから。